シンガポールの支店には、どんな特徴があるのでしょうか。
シンガポールの支店について、その特徴を説明しながら留意すべき点に触れていきたいと思います。
①基本的な視点
支店は形式的にも外国企業として登録されますし、実質的にも外国企業の一部である。このことは、日本本社の側から見た場合、場所がシンガポールにあるため現地法令に準拠する必要がありますが、あくまで日本本社の一部であるということが制度を理解するうえで必要な前提になります。
②組織
日本の会社の一部ですので、取締役は日本本社と同一です。ただし、支店の運営上、親会社から権限移譲された代理人が不可欠であり、政府当局も管理上現地にコンタクトパーソンが必要なことから、現地在住の代理人(Authorized representative)を選任・登記することが要請されます。
③決算
決算日は、日本企業と同じである。また監査済みシンガポール支店の決算書と日本本社の財務諸表を、日本本社の株主総会から60日後までに会計法人監督庁(ACRA)に提出しなければなりません。これは非公開企業の提出スケジュール(株主総会が決算日から6ヶ月以内、会計法人監督庁(ACRA)への提出がそれから1ヶ月以内)よりも早いので決算業務にはその分余裕がなくなります。また、会社のように小規模会社に対する監査の免除規定がないため、すべての支店は会計監査を受ける必要がある点にも留意が必要です。
④税務申告
シンガポール支店はシンガポールで事業活動をして利益を獲得しているため、シンガポールにおいて税務申告をすることが求められます。一方で、日本の法人税は全世界所得に対して課税しますので、シンガポール支店の損益も取り込んで申告する必要があります。その結果、支店で利益が計上されている場合、結果的には日本の実行税率で課税され、シンガポールの低税率の恩恵を享受できません(シンガポールで納めた税金が外国税額控除という形で日本の法人税から減額されるので、2重にはなりません)。一方で、シンガポール支店で赤字が続く場合には、日本側でその損失を取り込めることになり、日本の税率でその分の減税効果が現れ、このような場合には合算課税されることがメリットになります。
⑤設立手続き
設立手続きは、多少支店の方が大変でしょうか。支店は日本本社の一部であるため、設立に必要な情報も本社にあるので、それを収集したりと日本語の書類を英語に翻訳したり公証を得たりという手間がかかる分、相対的に支店の設立手続きのほうが多少大変です。
どのような場合に支店形態が適するか
ではどのような企業が、支店という形態でシンガポール進出をすべきなのでしょうか。
①日本本社の力を使って営業をすることが有利な場合。
例えば、建設業のシンガポールの公共工事への入札などにおいて、日本本社の財務情報(資本金額、総資産額、売上高等)を利用したほうが有利な場合があります。そのように日本本社の力を使うことが営業上有利な場合には、支店を利用したほうがいいでしょう。
②当面支店で利益が見込めない場合。
当面支店での利益の獲得が見込まれない場合には、支店の収支が日本本社の税金計算に合算される、支店を選択することが、日本とシンガポール合計でみた場合に税務上有利になることもあります。もちろん、支店の決算は、移転価格税制やみなし課税の規定もクリアして適切なものである必要があります。