法人税額の計算において、日本と大きく違う点について確認しておきましょう。
法人税の構造及び税率
(日本)
法人税・住民税・事業税から構成されます。
住民税の均等割り、事業税の外形標準課税や資本割のように、会社の所得に対応しない法人税額もあり、計算はかなり複雑ですね。大法人の実効税率(課税所得に対する税率)は、30%を少し超えるくらいです。
(シンガポール)
法人税のみです。
税率も基本的に17%のみ。所得控除や税額控除が充実しているので、特に所得が少ない場合の実質的な税率はもっと低くなります。
税率もさることながら、構造のシンプルさがシンガポールのいい所ですね。
まあ、日本の税金は、法人税やら特別なんとか地方税やら、市民税やら県民税やら、事業税やら、外形標準やら、法人税割やら付加価値割りやら、均等割りやら…、とにかく騙し騙し税金を取ろうとするのでめっちゃ複雑ですからね。労力の無駄以外何ものでもありませんよね(笑)。
所得計算・加減算項目
シンガポールでは事業で使えば課税所得上の損金になります。
役員報酬や接待交際費でも金額的な制限はありません。それどころか、展示会や試験研究など支出額以上に損金計上できる項目もあります。
対して日本では、これはダメ、これはこの金額までと、とにかく損金(課税所得上の費用)に入れさせないようにして、その分たくさん税金を取ろうと頑張って制度設計されているので、大きな会社になると税金計算がめっちゃ複雑です。そういう無駄もシンガポールではありません。
繰越欠損金の年度使用限度額および使用期間
あとは繰越欠損金についても取り扱いがだいぶ違います。比較すると以下の通りです。
(日本)
繰越欠損金の年度毎の使用限度額や使用可能期間は、毎年のように改訂され、2018年4月以降開始事業年度からは使用限度額がとうとう所得の50%までに引き下げられました。
一方で使用可能期間は10年まで引き延ばされていますが、少なくとも、繰越欠損金の毎年の使用可能額も使用可能期間も有限であることには変わりありません。
(シンガポール)
株主に重要な変動が生じていなければ、繰越欠損金は毎年所得の100%使用可能ですし、期限はありません。しがたって、繰越欠損金の残高が所得を上回る場合、法人税の支払は不要です。
また、シンガポールでは、繰戻還付(Loss Carry-Back Relief for Unutilised Items)が1年間、100,000シンガポールドルを限度として認められています。
例えば、2024年3月期にS$ 200,000の所得が出てS$ 34,000の税金を払ったとします。(税率は17%と仮定)。翌年の2025年3月期に△S$ 300,000の損失が出た場合、前年の所得S$ 200,000のうちS$ 100,000分の税金S$ 17,000はその期に還付請求することができます(今年赤字だったので、その分を前年に納めた税金から返してねということです)。この場合、S$ 100,000還付請求したので、この期の繰越欠損金はS$ 200,000(所得S$ 300,000-還付請求分S$ 100,000)になります。
ACRA(シンガポール企業会計規制庁)による繰越欠損金の扱いに関する説明はこちら繰越欠損金の扱い(ACRAウェブサイト)をご参照ください。
会計士的には、繰延税金資産や負債の計算や評価に結構影響を与えそうですが、税率が低いことや基本的に税務と会計の不一致が少ないことから、現地の一般会社では何の気も留めずに税効果会計なんか無視していることが多々あります。
親会社で連結財務諸表を作成するにあたって、繰越欠損金に関する税効果に重要な影響がある場合には当然会計処理に反映しなければならない事項ですので、注意が必要です。