歴史的側面から
シンガポールの経済は、同国創始者リー・クアンユーの強いリーダーシップのもとで、海外からの企業誘致、投資確保、およびそれに伴う有能な人材の受け入れによって、発展を遂げてきた。一方で、シンガポールの国土面積は、わかりやすい例えで、東京 23 区程度といわれており、不動産の供給能力は限定的である。そのため、外国企業や外国人労働者の増加に伴い国内の不動産価格は上昇し、それが海外からの投機マネーを呼び込む形で、シンガポールの不動産価格は世界的に見ても極めて高い水準といわれるまでに上昇した。
こうした不動産バブルは、住宅の取引価格や生活コストの上昇等という形でシンガポール国民の生活環境に影響し、国民は次第に政府の外国人政策に対して不満を抱くようになった。こうした国民感情に対処するため、政府は外国人流入抑制策や外国人を狙い撃ちにした住宅投機抑制策を相次いで導入し、シンガポール国民の政府への反発をそらす政策を採り始める。その結果、2016年ごろから不動産の取引価格や賃料が下落をはじめ、将来のシンガポール経済の予測や不動産供給見込みから、しばらくはこの下落傾向は継続すると考えられている。
不動産市況の予測
ポイントは、不動産市況(取引価格や賃料)はシンガポールへの海外企業の流入数(それに伴う労働者数)に影響を受けるという点とシンガポール政府はあらゆる経済局面においてコントロールを試みるという点。この2点が、シンガポールの不動産市況を考察するうえで不可欠な視点である。
この政府のコントロールについての個人的な印象ですが、経済の完全なコントロールはそもそも不可能であるというべきなのか、それとも他の東南アジア諸国の台頭によりシンガポール政府だけでコントロールできない要因が増えたためなのか、原因はわからないが、少なくともコントロールの有効性は弱まっているように感じます。シンガポール経済は潜在的に弱含みであり、また、事業のIT化も相まって、本国での外国人労働者の増加はあまり期待できない一方、不動産バブル期に決定着工した、オフィスビルの完成、MRT(鉄道)網の拡大やコンドミニアムの完成が相次ぎ、不動産供給は増加するため、需給バランスから考える不動産価格はしばらく逓減傾向が続くのではないかと思われます。